FEB.1,2021_最近のなろう小説

 投稿されているほとんどの作品が量産型の異世界転生ラノベである「小説家になろう」に潜り、原石のような輝きを持ったファンタジー小説を探し当てるということを隠れた趣味にしているのだが、ここらで最近(主に2020年の後半)の調査結果を報告する。ちなみにじっくり読んでいる時間はあんまりないので、駅までの歩いている時間(20分強あるのだけど)にiPhoneの音声読み上げ機能を使って読んでいたりする。おすすめです。

俺だけレベルが上がる世界で悪徳領主になっていた
 全クリしたゲームの最序盤で死ぬザコキャラに転生してしまった主人公が、生前の知識を活かして未来を書き換えていく話。プロットも文章もよくできている。とくに戦略がよく練られていて、ウォー・シミュレーションゲームをやっている感じの空間描写・ドライな文体。戦場を俯瞰してみているような感じ。というかたぶん、リサーチ元がゲームなんだろうなと思う(シヴィライゼーションとか)。ウォー・シミュレーションゲームを戦略やストーリーの元ネタにしつつ、舞台をそのまま「ゲームの世界」にしてしまう、という入り組んだ(最初から参照元を露呈させるような)構造をもっている。このリテラリティが異世界転生モノのラノベの根底にあるような気がする。

エロゲ転生 運命に抗うかませ犬奮闘記

 構造としては上の作品とほとんど一緒なのだが、こちらはエロゲの世界に転生している(なろうでは「構造の新しさ」など求められていない。擦ってなんぼの世界なのだ)。元のゲームでは絶対にどのルートに行ってもヒロインたちに殺される運命にある敵キャラ(ルートによってはラスボスになる)に転生した主人公が、死の運命に抗う話。もとの性悪な人格と転生した地球人の人格が混ざり合い、それを機に主人公が更生・成長していくストーリーともいえる。恋愛シミュエーションゲームへの転生というアイデアはなろうではけっこう定番。たとえば『乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です』(『セブンス』の作者の最新作)など。ただ「エロゲ転生」は主人公が元のゲームの主人公やヒロインたちとほぼ関係をもたないというところが新しい気がする。恋愛ゲー転生もので、もとのゲームの登場人物と関係しすぎて早々に失速する、という駄作品を多く見てきたから、本作の微妙な距離の設定の仕方はおもしろい。

ティアムーン帝国物語
 中世〜近世あたりのヨーロッパのような世界を舞台にしたタイムリープもの。アホだが悪いやつではない王女であるヒロインが革命によって処刑されるも、気がつくと過去に飛んでいた、という話。しっかりとプロット組んでいないとすぐにボロが出てしまうタイムリープものだが、そのあたりのストレスがまったくなくて、すごくおもしろい。ほのぼのパートとシリアスパートの配分もちょうどいい感じ。キャラに愛着が持てる作品。

俺にはこの暗がりが心地よかった
 最近の一押し。神様のはからいで地球から1000人が異世界へと転生することになり、その模様がリアルタイムで地球で放送される、というのが導入の展開。かなりトリッキーな設定なのだけど、非常におもしろい。定期的に主人公の動向を実況する2ちゃん的なスレが挟み込まれるのだが、これもたいへん効果的だと思う。主人公が根暗でひたすらマイナス思考なのがいい感じ。

 その他、前回紹介した『ヘルモード』などは大きな躍進を遂げていて、十中八九アニメするだろうなと思われる。ストーリーもよくできていて、なろうを代表する作品のひとつになるんじゃないだろうか。『ラピスの心臓』(現在連載中の、なろう史上でも類を見ない傑作だと思う)の更新頻度が上がったり、『亡びの国の征服者』や『ループ7回目の悪役令嬢』などの良作がとてもグッドな作画で書籍化したりと、嬉しいこともたくさんあった。総じてランキングの10位内に入っている作品は息切れしがち、という傾向が見えてきた。物語冒頭からチート的にインフレしまくるので、30-50話くらいまでの快感はすごいのだが(だからこそランキングの上位に食い込んでくるのだけど)、展開に乏しく物語的に早い段階で詰んでしまう。むしろ注目すべきはランキング20-30位あたりの作品だ。これらは物語の冒頭で主人公がしっかりと苦労したりうまくいかなかったりするので、物語のプロットがきちんと機能する傾向にあると思う。以上、報告終わります。

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追記

『転生したら皇帝でした』https://ncode.syosetu.com/n6066gi/のことをすっかり忘れていた。なろう小説と思って侮るなかれ。派閥争いに勤しむ貴族たちの領土を図示した架空の地図や皇帝の家系図は圧巻。極めてよく設定が練られていて、『亡びの国の征服者』と似た雰囲気を感じなくもない。