SEPT.10,2023

一昨日の夜は家でのんびりと過ごしてしまったけれど、日立は台風の被害でたいへんだったみたいだ。ご心配くださっていただいたご連絡など受け取るまで全然しらなかった。昨日は13時半から茨城大学工学部都市システム工学科卒業設計展の講評会があった。雨の影響もあって常磐線は止まっていたようだ。電車の線はなくなり、午後は車で水戸へ。道がびっくりするほど混んでいたので、予定を1時間弱オーバーして到着。なんとかぎりぎり間に合う。水戸市民会館は盛況で、すごくたくさんの人がいる(後に、中島美嘉のライブがあったことが判明する。妻は美嘉がとても好きなので残念がっている)。小泉雅生さん(小泉アトリエ)、川口有子さん(カワグチテイ建築計画)をゲストにお迎えして講評会がはじまる。まずは川口さん、小泉さんの近作紹介レクチャーから。川口さんの木造四階建て共同住宅awaもくよんプロジェクトのお話はかなりおもしろかった。耐火や環境性能等を含めた近代的な諸制度・性能を引き受けた上で木造を用いると、ある種の過剰さだったり(燃え代を考慮すると柱は330ミリ角になるが、それは構造的には過剰だ)、近代建築の定石とはまったくべつの方法論(火災時の延焼を抑えるためには、開口部は多ければ多いほど良い、など)が現れる、はずだ。その片鱗を見た気がした。小泉さんのプロジェクトは、ある程度わかっていたつもりだったけれど、やはりどのプロジェクトも素晴らしいと思った。環境と身体という、「建築」の外側・内側の条件との拮抗関係から事後的に導かれる場をどうつくるか。

ゲストのおふたりによる講評は、当たり前だけれど学内とはまったく別の切り口だったりして、とても興味深く、学生も勉強になったと思う。小泉さんと川口さんの鋭い質疑にある一貫性がある気がして、僕なりに考えていたのだが、ひとつ気づいたことは、学生があるコンセプトを掲げたときに生じる「建築的な破綻箇所」(とくに採光)におふたりが敏感だったことだ。たとえば1階に介護サービスを必要とする高齢者の居室をつくり、2階に地階に住む親を離れつつ見守れる家族の居室をもってくるとする(大村研の加藤くんがちょうどそのような複合施設を計画していた)。見守りを可能にしつつ介護施設を街に開こうとする構成自体はとても良いのだけど、他方で、2階に閉じたプライベートなエリアが集中することで1階は暗くなってしまう……という欠点も同時に生まれる。これが前述したコンセプトの「破綻箇所」なのだが、これがあるから悪いというわけではなく、むしろこれこそがプロジェクトの核心になるという部分なのだ。上述した例だと、上階にプライベートな居住スペースがくる際に生じる地階の暗さ、さえ克服することができれば、このビルディングタイプは成立しうるということだ。だからこそ、プロジェクトの「最も重要なマター」として採光の問題に取り組むことができる。おふたりが、プロジェクトが破綻してるっぽいところを敏感に察知するのは、決して揚げ足をとっているわけではなく、それこそがプロジェクトをジャンプさせるポイントになるからだ。

破綻は、設定した仮説を十分に検証しなければ出てこないものだから、それが見えているだけでも十分素晴らしい。しかし、仮説(コンセプトや空間構成)によって生まれる破綻を自覚し、それを解決するところまでいけたらもっと素晴らしい。学生のみんなにはそのことを理解してもらえたらいいな、と思ったりした。