FEB.3,2020

 午前に学校に行って終電で帰って、食材を買いにいく時間もないので適当にコンビニ弁当でも食べて、みたいな荒んだ日々を送っている(査読付き論文の締切まであと1週間、、)。心の癒しといえば寝る前に読むラノベである。「個人の建築家とか将来不安やし異世界転生モノのラノベとか一発当てて小金持ちになったろ!!」という不純な理由で、リサーチと称して有象無象のなろう小説を読み始めたのが数年前、いまではすっかり趣味のひとつとなってしまった。大学への電車(東武野田線)で別の車両に乗っていた後輩に「先輩難しい顔でiPhone見てましたけど何読んでたんですか?」と言われ、「あ、うん、、Kindleで山本理顕の『権力の空間/空間の権力』をね、、」とつい反射的に言ってしまったけれど、あのときぼくは異世界転生モノのラノベを読んでました。嘘ついてごめんなさい、見栄張っちゃいました(理顕さんのKindle版を買ったのは本当)。それはともかく、最近読んでよかったのを紹介していこう。

・「魔王は世界を征服するようです」https://ncode.syosetu.com/n5677cl/。一応異世界転生モノではあるんだけど、主人公がチート能力もってて活躍する感じでは全然なく、かなりまっとうな戦記モノ小説になっている。そうとう面白いし、作者の知識量や文章力も高いんだけど、商業化はされていない。「魔王」の正体が判明するのが物語のかなり終盤なのが商業的にはちょっとネックなのかな。

・「黒の魔王」https://ncode.syosetu.com/n2627t/。結構ハードな内容で、ベルセルク的な世界観というかなんというか、味方も敵もバンバン死んでいく。主人公も最初からチート的な実力を発揮するわけではなくて、いろいろと苦労する(主に女性関係で)。これは書籍化もコミック化も進行中なので、近いうちにアニメにもなるんじゃないか。なんといっても「黒」ですよ「黒」。封印したはずの厨二魂がくすぐられるじゃないか。ただ、ヤンデレが苦手な人は厳しいかもしれない。ハード・ヤンデレ・ファンタジーという感じ。

・「アナザー・フロンティア・オンライン」https://ncode.syosetu.com/n3221fy/。これもおもしろい。フルダイブVRMMOが舞台になっていて、生産職を極めた主人公が最強のNPCを味方にしながら活躍していく。まだまだ序盤なので、これから二転三転ありそうな感じ。

・「ヘルモード ~やり込み好きのゲーマーは廃設定の異世界で無双する~」https://ncode.syosetu.com/n3669fw/。これもすごく面白い。最近の流れは「主人公がチートすぎない」ことで、この作品もやはりその辺のバランスがいい。

・「ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁(人質)生活を満喫する」https://ncode.syosetu.com/n1784ga/。圧倒的におもしろい。ついに「ジャンル: 恋愛」に手を出し始めてしまった、、。

・「転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す」https://ncode.syosetu.com/n7673ff/。おなじく異世界恋愛もの。文章が明快で気持ちいい。

-

 交通事故にあって異世界に転生してチート能力があってハーレムでやったあ!!みたいな一昔前のなろう小説の潮流というのは、いわば「ポルノ化」なんだよね。苦労もなく、なんの努力もリスクもなく「快楽」だけがひらすら生産されていくんだから。最近話題になる作品は総じてこうしたポルノ化への反動があって、主人公が苦労したり試行錯誤するものが多い。「まっとうなファンタジー」への回帰、といってもいいのかな。ポルノ的に前半に快楽を畳み掛けてくる作品はとにかく寿命が短く、100話もいかずにどれも息切れして面白くなくなってしまう。そういう事例が反面教師になってるのかも。

 「なろう小説」というのは、うかばれない若者の鬱屈が最もストレートに噴出する場だと思っているのだけど(小説というのは書くのはタダだし、なろうでは読むのもタダなのだから、欲望が表出する場としてこれほど向いている場所はない)、そういう意味では「なんの苦労もなくすべてが手に入るファンタジー空間への嫌気」みたいなものが現われているのは面白い。以前紹介した「村づくりゲームのNPCが生身の人間としか思えない」(https://ncode.syosetu.com/n1119fh/みたいな、フィクションと現実空間を独特の仕方でドッキングする作品が登場している背景にあるのはこうしたチートへの嫌気(虚しさ)かもしれない。現実と異世界、その両方を自律させつつ、パラレルに劇中に取り込んでいくという傾向は、たぶんも今後も継続していくだろうと思われる。