NOV.28,2018_女川町と坂茂

東北で撮った写真②

 

○ 石巻から隣町の女川町へ。こちらも大きな被害に遭った町だが、駅前はしっかりと復興していた。女川はもともと石巻線の終着駅があった場所で、駅は港まで伸びていたのだけど、現在では400mほどセットバックした位置に動かされている。線路跡は東環境・建築研究所による商業施設「シーパルピア女川」となっていて、これがなかなかよかった。ふたつしたの写真で両サイドに見える焼き杉仕上げの建物がその商業施設。これは線路跡の港までまっすぐ伸びる軸から撮った写真で、奥に見えるのが坂茂設計のJR女川駅。

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女川駅から港をみると下の写真のような感じ。いかにも坂茂な感じの建物なのだけど、スケールの設定、形態の決定の仕方ともによくできてるなと思った。上の写真をみるとわかるのだけど、明らかに奥に見える山(黒森山)の稜線から屋根の形態を決めている。あからさまに、風景との関係があっけらかんとわかりやすく明示されているので、それ以上解釈のしようがない、という感じがすごく良かった。隠喩ではなく直喩の力。

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ぼくは坂茂という人は直喩の人だと思っていて、それがこの建築家のすごく面白いところだと思っている。異常なわかりやすさによる解釈の停止と、それゆえのさわやかさ。例えば昨年竣工した「静岡県富士山世界遺産センター」なんかまさにそうだ。「富士山だなあコレ」という以外の解釈を絶対に許さない感じ。それが良いか悪いかは一旦置いておいて、これをやるの、すさまじく勇気がいると思う(ぼくなら絶対にしない)。形態が直喩である、ということは結局、形態を透明にするということであり、形態を主題にしないという宣言である。結果として、木材の匂いや、スケールの設定から受ける感触が、訪問者に真っ直ぐに届けられることになる。視覚性の放棄と、視覚以外の感覚器官が受け取る情報を前景化するための手続きとして、坂さんはこの直喩の徹底をやっている気がするんだよな。女川駅、数年経ってるけどめちゃくちゃいい匂いだったんだよね。この人の建築、匂いがファクターとして結構大きい気がする。

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△ 静岡県富士山世界遺産センター(出典: https://casabrutus.com/architecture/67999

 

◯ と同時に、「どこでなにをしてもやっていることが一緒」ということも、この建築家のすごいところだ。女川駅の内部は下の写真のような感じなのだけど、この建築は2010年の坂設計のポンピドゥーセンターの別館、「ポンピドゥー・センター・メス」と(規模はぜんぜん違うけれど)すごく似ていることがわかる。

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△ ポンピドゥー・センター・メス(出典: https://en.wikipedia.org/wiki/File:Metz_(F)_-_Centre_Pompidou_-_Au%C3%9Fenansicht.jpg

 

莫大な予算をかけて建設された世界を代表する美術館の別館の設計と、極めて限られた予算のなかで極力短期間での建設が求められた復興地での公共空間の設計が、その根本的なコンセプトを共有しているということはよくよく考えればものすごいことである。普通はぜんぜん違うコンセプトになってしまうところなのだけど、坂さんはそうではない。これは坂さんのおこなっている活動全般を貫くような、本当にリスペクトすべき点だと思う。

 

○ 下は同じく坂さんが計画した、女川町の仮設住宅群。高台の野球場の内部が団地化していてとてもおもしろかった。中世のヨーロッパで円形闘技場が集合住宅へとコンバージョンされたような現象と重ねちゃうところだ(あとFallout 4をやっていた人なら、ダイアモンド・シティを思い浮かべるだろう)。団地の作り方も、コンテナを互い違いに積んで、コンテナ部分を寝室や水回りにして、コンテナ同士の隙間をリビングやダイニングにするというたいへん合理的な設計。コンテナゆえに低予算で施工が容易、かつ解体もしやすく再利用も可能だ(とはいえ雨の処理等が難しいとも思うのだけど、この建築にはそのへんの試行錯誤が見れておもしろかった)。くわしくは下のリンクからどうぞ。

Container Temporary Housing | Voluntary Architects' Network

ちなみに現在は役目を終え、ほぼ無人になっていた。住人の皆さんは仮設住宅での生活を終え、新居へと映られたのだろう。でもそこには生活の痕跡がしっかりと残っていた。

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(Canon AE-1 Program, FD F1.4 50mm, FUJICOLOR 100)