DEC.5,2019_血

 一昨日、日仏会館でペドロ・コスタの『血』(1989)をみてきた。『血』はDVDでみたことがあったので他の回を予約したかったんだけど、黒沢清監督との対談が予定されていた「溶岩の家」は開始5分で満席になったらしい。まあスクリーンで見れるのはいいかとポチった。

 劇場という暗い部屋のなかで、投射された光として見ると、やはりこの作品はよかった。闇のなかで光があたった肌が白く光り……、みたいなことだけですごい感動しちゃう、というのはやはり独特な経験だ。触感しかない、みたいな経験。質感のつながりだけでショットがジャンプするような、ね。主演のイネス・デ・メデイロス(Inês de Medeiros)がこの世のすべてみたいに美しかった。同じくらい、コンクリートの部屋や湿っぽい石の道の質感とか、あるいは近代建築の内部での不穏な音の響き方とか、建物や都市の撮り方もすばらしい。

 人間が建築物のように、あるいは石のように、ただの物質、質量をもった表面として撮られているようなところがあって、つまり人間と建築物、都市、自然(水面とか土とか)がどこまでも等価に扱われているような感じで、フィルムに定着している。モノクロであることもそれを助長している。どこまでも汲みつくせない不穏さをもった物質として撮られた登場人物らが、観客に予想できない仕方で動き、互いに絡んでいく。ちなみにこの作品のDVDは最近お別れした元恋人に借りて見たんだけど、上映中はそのことを思い出しちゃってぜんぜん画面に集中できなかったのであった。お話に集中できなかったので(もとよりそういうつくりの映画ではあるんだけど)、ただぼおっとスクリーンに投射される質感だけを感じていた。

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PENTAX 67, SMC TAKUMAR 6×7 105mm / F2.4, FUJI PRO400H