OCT.25,2019_梅田スカイビル

関西でとった写真③

 

 SDレビューのプレゼンがあった翌日。この日は梅田スカイビル(原広司, 1993)で待ち合わせだった。スカイビルに登るのはこの日がはじめてで、というのも正直にいうと、これまでは外観だけをみて「絶対よくないだろう……」と思い避けていたのだ。ぼくは原さんのスカイビルの初期スケッチがとても好きだったのだけど、学部生のころはじめて実物を見たときにスケッチとの印象が違いすぎて、近くまで行ったものの登るのを止めてしまっていたのだった。しかし実際に登ってみてとても反省した。すごくよかった。食わず嫌いはよくない。

f:id:o_tkhr:20191020103849j:plain

 展望台までの道のりは回りくどい。まず片方のビルの足元に入って2階に移動し、ブリッジを経由して反対側のビルに移動する。天空で連結されている2つのビルを地上部でぐるっと半周巡って、エレベーターに入る。このエレベーターは全周ガラスで、上昇していること、地上から離れていることを強く意識させるものになっていた。ここでのエレベーターは、「登っていること」を忘れさせ建物のなかに多数の「地上」を畳み込むような高層ビルでよくあるそれではなく、むしろ強く身体感覚に訴えてくる装置として用意されたものだ、と思う。そして、上階に到達し湾曲したフロアを歩いたあとに、今度は右斜め上方向へのエスカレーター(こちらも全周ガラス)へと乗り換える。このあたりから、身体が揺さぶられるような、目が回るような、方向がわからなくなるような感覚に襲われる。さて、エスカレーターを降りるとようやく屋内展望台に到達するのだが、このスペースには床も天井も鏡面に仕上げられた素材が使われていて、解きほぐされた身体が液状化し広大な眺めのなかで知覚をより一層拡散させることに、一役買っていた。エレベーターによって上昇する視覚イメージとともに鉛直方向への強烈なGが身体に刻み込まれ、地上から離れたという事実をまざまざと突きつけられたあと、斜め右上方向への透明なエスカレーターによって空中に身体が投げ出され、そのフワフワとした感覚のまま上下鏡面の真っ白な空間に到達した後、天空庭園と呼ばれる屋上の円形展望台へと登る。内部展望台も屋上の天空庭園も円形のフロアだ。方向感覚が脱略された身体は、この円形フロアを延々とぐるぐる回り続けることを欲していた。いつまでも浸っていたいと思わせられるような、天空の地上のあいだの「中二階」。ここでは、あらためての眼前の「この世界」と、自らの「この身体」を確認し、信頼することを求められるのだ。

f:id:o_tkhr:20191020103855j:plain

 おえつらえむきな空間体験だといわれればそれまでなのだけど、でもスカイビルの少しずつ身体がばらばらに解きほぐされていくような経験は、「グランド・レベルを大量に複製する」ために生産される近代の高層建築への強烈な批判にもなっていて、外観の厳つさだけで内部に入ることをためらっていた自分を反省したのだった。原さんの建築ってどれも身体に訴えてくるような仕組みがあって、でもその感覚は、アイコニックな形態の要素が散りばめられたパット見の印象からするとかなり意外だったりする。スカイビルの場合、地上はかなり賑やかで情報過多なくらい様々な形態がそこかしこに布置されているのだが、天空部はデザインがかなり抑制されていて、この対比も効いていたように思う。

 他の見どころとしては牛島達治との共同でプロポーザル時に作成された「動く模型」と建設時の記録映像だ。複数の超高層ビルが連結し空中に第二の地上を作るようなSF的想像力を原がどれだけ真剣に、マジで考えていたのかということが非常によくわかる模型と映像になっているのでぜひ見ていただきたい。

f:id:o_tkhr:20191020103859j:plain

-

PENTAX 67, SMC TAKUMAR 6×7 105mm/F2.4, FUJI PRO400H