JAN,15.2019_加湿器、ジェフ・ウォール

 土曜日のことだけど、すこしだけ雪がふった。粉雪ってやつだろうか、きれいだった。たしかに土曜はそれほど寒かった。ぼくは防寒力が貧弱なコートしかもっていいないので、コートのしたにウィンドブレーカーをきてそのしたにベスト型のダウンを着込むという方法をとっているのだけど(いろいろ試した結果それが一番効果があった)、それでもだめだった。たちいかないくらいさむかった。

 とてもさむいので、外ではきだす息はとても白い。加湿器みたいな色。たばこをすっていると、自分がたばこの煙をはいているのかそうではないのかわからなくなり、肺から煙が出続けているような感覚におそわれる。加湿器をかった。3000円くらいの安物だが、6畳くらいのアパートならこれくらいで十分だそうだ。さきほど届いたが、ものすごく快適でびっくりしている。なぜもっとはやく手に入れなかったのか、と悔やまれる。青白い光をはなっているので、就寝時には水槽のなかみたいなゆらめく光で部屋が照らされる。安物というだけあって、みごとに安っぽい青色なのだが、けっこう好きだ。外ではく息みたいなものをはきだしつづけている。

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 その日、都写美で「小さいながらもたしかなこと」展(〜今月27日)をみた。写真展では久しぶりに、そうとういいなと思った。とくにミヤギフトシさんの作品はひじょうによかった。ライトボックス+トランスペアレンシーの作品って、おもえばはじめてみたかもしれない(ミヤギさんの作品、モニターじゃなく、たぶんそうだったと思うのだけど、、)。あれほどまでに美しいイメージをつくるものだとは知らなかった。ジェフ・ウォールとか、しょうじきそれほどかね?って思っていたけれど、実際に生でみると圧倒的に美しいのだろうな。

 そのウォールの、バルセロナ・パヴィリオンをうつした作品は、現代美術における写真をもちいた作品では、おそらくもっとも有名なもののひとつだろう。

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△ Jeff Wall: Morning Cleaning, Mies van der Rohe Foundation, Barcelona, 1999

 

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△ installation view ( Jeff Wall Actuality | Well Designed and Built より)

 ライトボックス+トランスペアレンシーっていうのはようは、ポジフィルムをそのままライトボックスのうえに固定して展示しているようなものだ。それは写真をもっとも美しく展示する手法のひとつで(コストはかなりかかるけれど)、ウォールの場合はサイズもめちゃくちゃでかい。畳一畳ぶんくらいのポジフィルムがそのまま展示されているとおもえばいい。すさまじいことである。結果として観賞者への写真へのすさまじい没入感がもたらされるわけだけれど、ウォールの作品はコンストラクティッド・フォトグラフィ(構成的写真、演出写真。すなわちスナップショットを“模倣”した作品)なので没入しつつもどこか違和感が残り続ける(フリードの用語を借りれば、きわめてアブソープティヴな性質をもちつつも、同時にシアトリカルでもある、というような)。虚構=フィクションと現実=リアルの同時性。

 同時にこの手法は、非常に自己言及的でもある。バルセロナ・パビリオンはモダニズムのひとつの到達点で、その美しさは象徴化され、イメージ化して世界中で消費されている。しかし、その美しさを維持するためには毎朝の掃除がかかせない。近代は古くなること、風化を拒否を欲望する。それは美しい虚構であり、しかしそれと同時にこの世界に実在するモノでもある、と、それはウォールの写真の形式と完全にシンクロしている。リアルとフィクションが同時に、同じ強度で立ち上がること。ウォールの作品において、それは内容と形式の両方に組み込まれ不可分となっている。

 一般に写真に没入するということは、端的にカメラと眼を等号で結ぶようなフィクショナルな知覚のモードであり(眼=カメラという体制はいわば比喩である)、もういっぽうにあるのは、眼の前にある印画紙を単に目撃するという知覚のモードである。ウォールの作品においては、「対象を見ている私」(ライトボックス+トランスペアレンシーかつ巨大、という形式により、否応なく写真の内容に没入させられ、「我を忘れる」と、「印画紙を見る私」(それが演出された場面であることにきづき、「我に返る」)がすばやく往来を繰り返すことで、私の主体性は分割され、二重化するのである。とのとき観賞する身体は、このような知覚のモードの二重性を構成する癒着点となる。

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