DEC.30,2018_(独断と偏見による)世界の若手建築家特集

○年末である。テレビは特番ばかりになってきて、この記事を書いている今は日テレで出川さんのドッキリをやっているのだけど、これを見ているとなんだか徐々に作業のやる気が削がれていく気がする。だらだらせよ!だらだらせよ!、と天から指令を受けているみたい*1。せっかくだから、ぼくのブログでも年末特番的な記事を書こうと思ってあれこれ考えていたのだけど、結局ぼくに書けるのは建築についてなので、今回は独断と偏見にもとづいて、世界の注目すべき若手建築家を紹介する記事としたい。というのも、先日学部3年生の設計製図の打ち上げがあったのだけど、どうやら数人の学生がぼくのブログを読んでくれているようなのだった。うれしいのだけど、あまり建築学生のためになるようなことをここでは書いてないような気がするので、今日は(できれば)そういう記事にしたいなと思っている*2。こんな面白そうな若手がいたのか!!となってくれればいいし、あとインターン先の検討材料とかにしてくれてもいいと思う*3。こういう啓蒙的な記事はどうかなとおもうのだけど(ぼく自身はそういう押しつけが苦手だし、自分ごときが、という気持ちがどこまでいってもあるので避けていたのだけど)、たまには書いてみよう。もしかしたらどこかのだれかの判断のひとつの素材としては、役に立つかもしれない

○本題に入る前に、後輩の皆さん向けにということで、この場を借りて情報収集の方法について少し書いておきたい(よく聞かれるので、、)。まず大切なのは、日本の建築雑誌(『新建築』『住宅特集』『a+u』『GA Document』等)を毎月読むこと、これを基本として、『建築知識』に代表されるような実務的な知識が学べる雑誌も並行して購読すること。もちろん時間は有限なので、気に入ったもの数紙だけで大丈夫なのだけど、とにかく読むこと、そして読むことを継続すること、が大事。時間のあるひとはこれらのバックナンバーを図書館で読み込むといいと思う。とりわけ『都市住宅』はできれば全巻読んでおこう。かならず何かヒントをもらえると思う。ただ、日本語で読める資料は基本的にみんな知っていると思ったほうがよく、新しい情報は結局、英語文献をあたらないと入ってこないことが少しずつわかってくる。雑誌でいえば、『Domus』や『DETAIL』あたりもいいのだけど、おすすめは建築家ごとに1冊まとめられている『El Croquis』や『2G』、『a.mag』のような雑誌で、これらのほうが参照源として優秀だと思う(とはいえ高価なので、とりあえずはGA gallery Book Shopや南洋堂といった専門書店にいって立ち読みするとか、図書館や研究室で読むとかしてから、気に入ったものだけゲットするといい)。と、これらを読んでいれば国内の建築雑誌は実はそこまで読まなくてもいいとも思ったりする。『El Croquis』(以下エルクロ)や『2G』は毎月購読しているけれど、国内の雑誌で読んでいるのは『建築知識』と『日経アーキテクチュア』だけです、みたいなバランスで情報を取り入れていくことが実は面白く、数年継続すれば必ずしも時流にそぐわないような、ユニークなレファレンス体系が自分のなかにできあがってくる。『設計資料集成』や『Constructing Architecture: Materials Processes Structure』(スイス版の設計資料集成。オススメ)みたいな情報体系を、少しずつ、自分のなかで独自につくっていくこと

 それと、早いうちから『Log』にチャレンジすることもおすすめしたい。建築の設計や理論に関する最先端の議論はこの雑誌でおこなわれているとおもっていい。

www.anycorp.com

テキストベースの雑誌でいえば、AAスクールが出している『AA Files』や『San Rocco』もgood。とくに『San Rocco』は4巻まではpdf版が一冊5ユーロという低価格で購入できるので、なんとなく内容が気になる人はさくっと買っちゃうといいと思う。さらに割とハードなテキストを若手が寄稿していて、かつそれらすべての記事が無料で読めてしまう「CARTHA」というサイトもある。海外は議論の場が充実しているね。自分でもこういうプラットフォーム立ち上げたいなと思ったりします。

www.sanrocco.info

www.carthamagazine.com

 と、上記の英文雑誌は内容がかなり難しいので、できれば一人で挑戦しようと思うのではなく、有志をあつめて読書会をやるといいと思う。なにか面白そうなテキストをひとつ決めてみんなで翻訳するとか。うちの研究室ではそういうことを継続してやっているけれど、もちろん学部生や修士の学生が自主的に読書会を企画することも大事だ。ただもちろん、日本語で読める必読書からチャレンジするというのが、順番としては先かもしれないけれど(ただし“必読書”的なものを疑ってかかることを忘れてはいけない)

 さて、Webサイトでいうとまず日本の定番サイトは「architecture photo」「10+1」「TOTO通信」「dezain.net」あたりだろうか。海外のサイトでいうと、「afasia」や「IGNANT」、「Divisare」はわりと多くの人がチェックしている気がする。その他、単に最新のニュースが読みたければ「ArchNewsNow」、表現方法について知識を深めたければ「KooZA/rch」がいいと思う。それと建築の記事だけじゃないけれど、「e-flux」にも目を通すべし。「archidaily」や「dezeen」は情報量が多すぎて、たいして面白くない作品も大量に含まれているのであまりおすすめできない(事後的に海外作品のデータを調べるうえでは有益)

 

○ということで、ようやく本題に入ることができる。ぼくの独断と偏見にもとづいて、いま注目すべき世界の若手(?)建築家を、国ごとにまとめてピックアップしていこう(候補しぼるのたいへんだった、、)。ここで取り上げる建築家に対して、ぼく個人としてはいろいろ思うところが(肯定的な意味でも批判的な意味でも)あるのだけど、その辺を書いていると終わらなくなっちゃうので議論は最低限必要なものに抑え、今日はできるだけサクサクと紹介していきたいと思う。

《ベルギー》

 ベルギーは不思議な国で、面白い若手の建築家が続々と出てきている。現状、意欲的な建築的実践がもっとも盛り上がっている地域といっていい。特徴として、手仕事の文化が残っていること、そして言語が達者な建築家が多い気がする(多言語国家という土地柄だろうか)。複数言語を扱えるというだけで、インプットされる情報の量と質が、そしてアウトプットするための機会が、格段に違ってくる。

 ベルギーの若手でまず取り上げる必要があるのは、むろん、Office KGDVS(OFFICE Kersten Geers David Van Severen, 以下オフィス)である。ここ数年で日本でもかなり知名度が出てきて、日本語でよめる彼らのテキストも増えてきたのでうれしい。HPをみて興味をもったらまず長谷川(豪)さんとの共著があるのでそれを、そしてエルクロと2Gの両方で特集号が出ているのでそれらに目を通せばをいいと思う。個人的にぼくがいま建築図面に投影される初等幾何学(正方形とか円とか)を研究のテーマにしているのも、彼らの存在が大きかったりする(あと pezo von ellrichshausen。彼らが果たして今後も生き残っていくのか、あるいは数年で注目されなくなってしまうのかは、現状ではわからない*4。ビジュアライゼーションとメディア戦略が巧みなぶん、やはり実作をみてみないとそのへんの判断はできないなとは思う。

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△ Office KGDVS: Villa, Buggenhout, 2012

ちなみにロンドンの「BETTS PROJECT」は、オフィスやPier Vittorio Aureli、Peter Märkliの展示をおこなっているギャラリー。こういう場所があるのは本当にうらやましい。

 つづいて51N4E。オフィスとともに活動していることも多い事務所だ。最近は2008年にコンペをとったプロジェクト「Skanderbeg Square」が竣工し、このプロジェクトだけを扱った書籍を出版していたので要チェックだ(青山ブックセンターで確認)

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△ 51N4E: Skanderbeg Square, 2018

 くわしく書いていると絶対におわらないので、どんどんいこう。つづいてはarchitecten de vylder vinck taillieu。去年a+uで特集されたので、興味をもったらそちらをどうぞ。

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△ architecten de vylder vinck taillieu: HUIL, 2015

 つづいてAgwA。上記のarchitecten devylder vinck taillieuや後述の6aと共同してます。

f:id:o_tkhr:20181229153806j:plain△ AgwA: sport and leisure centre in Waasmunster, 2016

 

 ゲントをベースに活動するGAFPAは1980年代生まれの三人の建築家(Floris De Bruyn, Philippe De Berlangeer and Frederick Verschueren)が主宰する設計事務所だ。たまたま書店で手にとった彼らの作品集G1710 – GAFPAが非常に印象的なつくりで、日本の若手建築家ともかなり価値観が近いのではないかと個人的には感じた。この作品集は写真家のAglaia Konrad、画家のBert Huyghe、グラフィックデザイナーのArthur Haegeman、建築理論家のMaarten Van Den Driesscheとの共同作業で制作されていて、GAFPAの作品を彼らが紹介するというよりは、彼らの建築作品を思考の材料にして各自が自由にアウトプットをおこない次なる課題を探索する、という目的で作られているように思う。この感じが今っぽくって、Office KGDVSや後述するChrist and Gantenbeinなんかの展覧会や作品集の作り方と通じるものがあると思う。

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△ GAFPA: G1307, 2015

 注目すべきは既存への介入(intervention)の仕方だろう。最低限のてつきで最大限の効果を得るような、針の穴に糸を通すような絶妙な介入の仕方をとっていて、毎回外さない感じ。Maarten Van Den Driesscheが寄稿しているテキストのなかで印象的だったのは、既存の構造を綿密に分析し脱文脈化と再文脈化のプロセスを慎重におこなうGAFPAの方法は“デザインプロセスを遅延させ、決定の瞬間を延期させる”ことに積極的であるように思われる、という指摘だ。これは大量の模型をスタッフに作らせてそこから消去法のような仕方でスタディを進めていくような日本的な(丹下研究室的?)なスタディ方法とはかなり異なるように思う。手を動かしてしまう前にじっくりと既存を観察し、議論を重ねることで、設計プロセスのなかに研究のための十分な時間と空間を用意すること。これにも関連するが、GAFPAがおこなっている教育プログラム「PRIMARY STRUCTURE」にも注目されたい。

primarystructure.net

 最後に、BAUKUNSTはブリュッセル及びローザンヌに拠点を置く設計事務所で、主宰のAdeien VerschuereはHerzog & de Meuron出身。後述するフランスの事務所、brutherともタッグを組みつつ非常に面白い仕事をしている。brutherとともに、今回とりあげる事務所のなかでは(個人的に)最も重要といっていいかもしれない。

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△ BAUKUNST: structure and gardens, brussels, 2014

 

《スイス》

 スイスの若手建築家のひとつの動向として特徴的なのは、ヴァレリオ・オルジアティやクリスチャン・ケレツ以降のフォーマリズム的状況が批判的に引き継がれていることだろう。Pascal FlammerRaphael ZuberScheidegger KellerAngela Deuber等。

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△ Pascal Flammer: House in Balsthal, 2014

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△ Raphael Zuber: Apartmeny Building with 5 Apartments, 2016

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△ Scheidegger Kellerr: Haus mit zwei Stützen, 2014

f:id:o_tkhr:20181229162848j:plain△ Angela Deuber: School in Thal, 2013

最後のDeuberさんは女性の建築家で、力強い造形と繊細なスケールが同居していてとても印象的だ。今年のヴェネチア・ビエンナーレのアルセナール館でも、彼女の展示が頭一つ抜けていた。

 北欧のJohannes NorlanderやミュンヘンのTochtermann Wündrichなど、こうした流れは十分な波及力をもって展開しているように思われる。「新しいフォーマリズム」(と仮に呼称すれば)における「形式」は、構築的アイデアと計画的な要請を「調停」(止揚)するものではない。換言すれば、「形式」は物質を抑圧し、なおかつその建築を使う際の行動の自由を歪曲するという「妥協点」において規定されるものではけっしてないということだ。(しつこいけれど)さらに噛み砕いた言い方をすれば、「形式」は「無茶なディテール」と「使い辛さ」のもとに成立するものである、という認識はまったくの誤解だ、ということ。世界中で同期的に出現しはじめているフォルマリストたちは、あらかじめ固定されたものとして構築的あるいは計画学的合理性を措定しそこから形式、かたちを導出するのではなく、形式それ自身を自律したものとして扱う。これこそが「新しいフォーマリズム」の特徴であり、ここでいわれる形式は、物質にも人間的な精神にも準ずることなく、両者を結びつける一種の機能(=関数)としてはたらくことで、むしろそれら(物質ないし精神)を状況に合わせて演繹する役目を担う(そしてこのとき、形式の自律性は建築の組立及び経験のプロセスの途上においてのみ存する。)。それは「道具」という存在に著しく近いものであり、構築的アイデアやプログラム、計画的合理性は、複数同時にあるうる形式から事後的に自己再生産される。繰り返すが、形式は(恣意的に)措定した問題の解決のために用いられるのではなく、解決すべき問題も、構築されるべきテクトニックも、あてがわれるべきプログラムも、あくまで形式から事後的に派生し順繰りに提案に実装されていくのである。これについてはいずれどこかでしっかりと論じることができるといいのだけど。

 こういったフォーマリスティックな動向と並行して、Caruso St JohnやMärkliといった建築家の血を色濃く受け継ぐような若手ももちろん存在している。彼らはヨーロッパの重厚な歴史を受け止めることにとりわけ自覚的であるようだ(逆にオルジアティは歴史からの切断に意識的だ)。とはいえ、ここでの「歴史」とは(恐ろしいほど単純化していえば)キッチュとされてきたものと高尚とされてきたものを同じ「素材」としてフラットにあつかうような態度であり、1000年前と10年前の建築をまったく同等の権利をもった参照源として扱うような軽やかさをもった歴史観であるように思われる。

 たとえばChrist & Gantenbeinは、上述したオフィスや51N4Eらと問題を共有しているだろう建築家だ。ヨーロッパのこの世代の建築家たちは国境をまたいだ横の繋がりがしっかりあるという印象がある(オフィスやChrist & Gantenbein、51n4e、jan de vylderに加え、フランスのlistやポルトガルのBarbas Lopesなど)

f:id:o_tkhr:20181229165127p:plain△ Christ & Gantenbein: Extension Arlesheim 2002

知的水準の高さと過激さが同居する良い仕事だ。これは2002年の仕事だけど、現在では規模の大きい建築も手がけている。しかし規模が小さくても大きくても、基本的に彼らの仕事の仕方はブレない。現代的な歴史へのアクセス回路を持っているからこそ、Christ & Gantenbeinにしろ後述するBarbas Lopesにしろ、例えばブルネレスキと同じように、増築的な案であってもコンテクストに接続しつつ現代的な提案をおこなえている。ちなみに今日の記事で取り上げている建築家の多くが、2000年代に小さな規模の仕事(あるいは執筆業)で注目をあつめ、現在では大中規模の実作を続々実現しているという世代だ。さらには2人組、ないしは多人数で事務所を運営しているとうこともその特徴といえる。

 つづいて、Lütjens Padmanabhan Architekten。名前が全然読めないけれど、この人たちも不思議で面白いプロジェクトをやっている。HPにあるのはイカれたプロジェクトばかりである(すごく褒めている)。ロースっぽさもあり、ヴェンチューリっぽさもあり、、。

f:id:o_tkhr:20181229165921p:plain△ Lütjens Padmanabhan Architekten: Algier, 2017

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△ Lütjens Padmanabhan Architekten: Binningen II, 2011-14

 Michael Meier Marius Hug Architektenも、ここで紹介しておくべき建築家であるような気がする。Miller&MarantaやMärkliの流れも組みつつも、エンジニアリング的なアイデアが存分に投入されている印象。ハンネス・マイヤーばりのキャノピー。

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△ Michael Meier Marius Hug Architekten: Ziviler Flugplatz Dübendorf, -2024

 スイスの若手に関してはキリがないのでこの辺で(渋くて面白い仕事をやっている人がもっといるのだけど)。ちなみに、アルド・ロッシがETH(スイス連邦工科大)で教えていたころにアシスタントをしてたHeinrich Helfensteinさんという写真家がいるのだけど、彼のホームページもおすすめだ。彼が撮影している建築家の仕事は大体おもしろいという。www.afaf.ch

 

《フランス》

 BAUKUNSTのところで紹介したbruther。すべての仕事がハイクオリティかつ新しい。BAUKUNSTもbrutherも、戦後の建築的実践をいったんリセットして、モダニズムを現代の文脈・技術・生産体制で「やり直している」雰囲気すらある。“こうもありえたかもしれない”別の世界線での近代建築を見ているようだ。

f:id:o_tkhr:20181230154653p:plain△ bruther: HOUSING AND COMMERCIAL SPACE, PARIS, 2017 (left) / bruther + BAUKUNST: Frame, future media house of mediapark, brussels, -2021 (right)

 Studio Muotoもまた、モダニズムの脱文脈化とその現代への再接続を実践しているように思われる。今後どうなっていくのか非常にたのしみ。

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△ MUOTO: Public Condenser, 2016

 

《スウェーデン》

 ARRHOV FRICKは、個人的には長いあいだ注目している建築家だ(最近でた2Gで知った方も多いと思う)。好みです。

f:id:o_tkhr:20181230150115p:plain△ ARRHOV FRICK: Six Wall House, 2015 (left) / ALMEN, 2016- (center) / VIGGSÖ, 2016 (right)

ラカトン(&ヴァッサル)的なアイデアとプルーヴェ的な組立合理性を北欧という過酷な状況でチャレンジしつつ洗練させるというハードモードなことをやっていて、応援したくなってしまう。このブログで取り上げているような最近の若手建築家の雰囲気がうまいこと流れ込んでいてかつ見事に消化されているので、参考になると思う。形式を洗練させるということと、過度なディテールの作り込みを避けるということを両立させるということは実は難しい。

 

《イギリス》

 まず6a architects。素材の扱いが現代的。

f:id:o_tkhr:20181229173732p:plain△ 6a architects: Blue Mountain School, London 2018

ただし、インテリア以上の発展が彼らにあるのか、というところは留意して注目していきたいところだ。ちなみに主宰のTom EmersonはETHの教員で、そのホームページもひとつのメディアになっていて素晴らしいのでぜひ訪問してみてほしい。

www.emerson.arch.ethz.ch

 つぎにHall McKnight。もはや若手かどうか怪しくなってきたが、一応日本ではそれほど紹介されてない気がするのでピックアップ。今年のベネチア・ビエンナーレ、アルセナールの展示(右下)は、ベタな提案だけどよくできてて感心した。

f:id:o_tkhr:20181230143742p:plain△ Hall McKnight: MAC, Belfast, 2012 (left and center) / Venice Biennale 2018 (right)

 Serie Architects。主宰のChristopher C. M. Leeは現在ハーバードのGSDのAssociate Professor。彼はアウレリが編集を担当した論考集『The City As A Project』(Ruby Press, 2013)にJ. N. L. デュランに関する論考を寄せていて、ぼくはそれで彼を知った。去年のシカゴ・ビエンナーレの出品作(下左)で知った方も多いのでは。

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 最後にOMMX。表現に関してはこの人たちの右に出るものはいないというくらい、突出している(いかにも最近のAAスクール出身者らしい感じ)。主宰のHikaru NissankeとJon Lopezはそれぞれ1985年と1984年生まれ、スタッフはみな1990年代生まれで、年代も近いし、ポルトガルのfala atelierやフランスのPlan Comúnと比較しちゃいたくなるが、どちらもオフィス以降のレプレゼンテーションに重きを置く流れの危うさを秘めているように思う。つまるところ実作はどうなのってことなのだけど(できたものに対してビジュアルが担っている機能は何?という疑問)、彼らの仕事は最近になって続々と建ちはじめているみたいなので、継続して注目しつつ批判的に検討したいものだ。

f:id:o_tkhr:20181230172653p:plain△ OMMX (left) / fala atelier (right)


《ポルトガル》

まずBarbas Lopes。非常に面白い仕事をしている事務所だったが、大変残念なことながら、一昨年にパートナーのひとりのDiogo Lopesが亡くなってしまっている。しかし現在でもプロジェクトは続々進行中のようで、安心した。今後の活躍がすごく楽しみだ*5

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△ Barbas Lopes: Thalia Theatre, Lisbon, 2012

 つぎにNuno Brandão Costa。ちょうど昨日先輩に教えてもらったのだけど、めちゃくちゃ面白い建築家だなと思う。作品集、どこかで読んでみよう。ホームページも美しいのでぜひ。

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△ Nuno Brandão Costa: School in Padrão da Légua, Porto, 2011

 

《オランダ》

いろいろ迷ったのだけど、 Anne Holtrop。こういう仕事をする人もやっぱり必要。

f:id:o_tkhr:20181230160651j:plain△ Anne Holtrop: TRAIL HOUSE, Almere, 2009 

 

《アメリカ》

予想以上に長くなってきて疲れてきたのでダイジェストぎみにいきます。アメリカの若手の状況についてはa+uの特集号(「米国の若手建築家」2017年5月号)を読めばいいかと。ただし学部生がレファレンスにするとなると、a+uで特集されている建築家はかなり危うい、きもする(とくにAndrew Kovacsは...)。参照するなら実作に結びついているMOSJohnston MarkleeSO-ILあたりだろうか。下のようなプロジェクトに惹かれたら、彼らの最新のプロジェクトをチェックしてみるといい。

f:id:o_tkhr:20181230171409p:plain△ MOS architects: Krabbesholm Højskole, Denmark, 2012

f:id:o_tkhr:20181230171433p:plain△ Johnston Marklee: Vault House, USA, 2013

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△ SO-IL: Kukje Gallery—K3, Seoul, 2012

 個人的に注目したいのは、Fake Industries Architectural Agonismだ。このブログでも数回名前が出てる気がする。グッゲンハイム・ヘルシンキのプロポーザル案で一躍有名になった感があるが、住宅の提案も面白い。

f:id:o_tkhr:20181230170106p:plain△ Fake Industries Architectural Agonism: OE House, Spain, 2015

 最後にFirst Office。この事務所を主催しているAndrew Atwoodの新刊がかなりよさそうだったので紹介しておきます。ヴェンチューリはこれから若い人たちに、こういうふうに再考(再演?)されていくんだろうなと思った。しっかり読んだわけではないけれど、ルシェ、スコット・ブラウン、ジェフ・ウォールが取り上げられるパラグラフなんかもあり、グッときた。

Not Interesting: On the Limits of Criticism in Architecture

Not Interesting: On the Limits of Criticism in Architecture

 

f:id:o_tkhr:20190626130612j:plain△ First Office: Blocks of blabla, 2016

 

 ということで、さすがに力尽きてしまったのでこの辺で終わりにしておこう。育ってきた時代背景や、設計を進める上での技術的バックボーンが近い若手の世代が、いまどのようなものを、どのような問題意識をもって、どのような仕方で建ちあげようとしているのか。その点を注意深く観察する必要がある。今日紹介したのは個人的な好みによるかなり偏向した情報だけど、しかし早い段階からこれくらいの情報を、例えば友人と議論をおこなう際のベースにできるといいと思う。というのも、普段の設計課題にしろ卒業設計にしろ、常に世界の同時代的かつ同世代的な実践のシンクロに対していかに距離を取りつつ応答するか、ということを頭の片隅に置いておくことが重要だと、ぼくは思うからだ(同級生や他大学の学生に対抗している場合ではない)。それを通して、自分たちが今現在素朴に抱いている世界へのリアリティを「地ならし」しておくこと。その先に、もっと上の世代の建築家たち、海外の建築家たち、あるいはすでにこの世にいない建築家たちとの応酬がある。

 さて、国内の建築家に関してはそれほど苦労しなくても情報が集められるとは思うけど、海外の建築家となるとそうはいかないので、複数人で情報を持ち寄るのがいい(現にぼくの情報は欧米に偏っていて、アジア圏の若手の活動には疎いので、ぜひ情報共有したいとおもっている)。この記事がそういった議論のベースになれば、なによりだなと思う。

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* この記事は定期的に更新していく予定です

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*1:年末年始は特番をみながらダラダラ過ごすという習慣が20年以上染み付いちゃっているので、身体が否応なく反応してしまっているのかもしれない。1500mを走るバキのように、、、。

*2:ということで、あまりにマニアックな建築家の紹介とかはできないので、定番どころの紹介になってしまうとは思う。少なくともエルクロや2G、a+u等で特集されているくらいでないと図面も手に入らず、レファレンスにしづらいからね。ご了承ください。

*3:あれやこれやと候補をしぼっていて気づいたのだけど、ぼくの「若手」の基準は、アンサンブル・スタジオやスミルハン・ラディック、セルガスカーノあたりがボーダーラインになっている気がする。サーペンタイン・ギャラリー・パビリオンをやってるかどうか(やっててもおかしくないか)がひとつの判断基準なのかも?。アントン・ガルシアやスミルハン、藤本さんたち世代の一つ下世代が、ぼくのなかでは「若手」という感じ。すごく、個人的な実感にすぎないけれど。今日紹介する海外の建築家たちは、基本的には日本で言えば藤本さんや平田さんたちよりも少し下の世代である長谷川さんや藤村さん、藤原さん、青木(弘司)さん、高橋(一平)さん、畝森さん、増田大坪、ムトカ、、等々と同世代の建築家であると考えていただけると、イメージしやすいかもしれない。

*4:少なくともオフィスのリプレゼンテーションに関しては波及力がありすぎたということもあり、食傷気味の人も多いのでは。個人的には、例えばオーストラリアのAndrew Powerや日本の黒川彰さん等、非ヨーロッパで活動をはじめているオフィス出身者がちょこちょこと出てきているので、彼らの(おそらくオフィスの活動に一定の距離感をとった)仕事に注目したいと思っている。

*5:ちなみに、Diogoがキュレーションを努めた2016年の「The Form of Form」はOffice KGDVS、Johnston Marklee、Nuno Brandão Costaという3組による展覧会である。全員が全員、今回の記事で紹介している若手建築家であり、かつ建築の展覧会という意味では類を見ないほど奇妙な内容になっているので、ぜひ確認してみてほしい。

https://www.archdaily.com/797047/the-form-of-form-2016-lisbon-architecture-triennale-johnston-marklee-nuno-brandao-costa-office-kgdvs?ad_medium=gallery