MAY.1,2020_相席食堂について

 千鳥の「相席食堂」という番組がすごく面白いのだけど、先日友人と話していて、この番組の本質は批評だと彼が指摘していて、とても納得した。この番組は毎回ゲストがロケをして、その映像に対して千鳥の二人が気になったところで映像を止めて、ときには同じ映像をなんども見直したりしつつツッコミを入れる、という構造になっている。そのなかで、ノブがゲストの行動に対してすこし意地悪い仕方で名付けをおこなったり、大悟がゲストを極端に肩入れ・忖度したり、見過ごしてしまいそうな細部に注目したり、、等々の作業がおこなわれて、ロケとはぜんぜん関係のないところで笑いが爆発することになる。千鳥のふたりがツッコミによって視座を提供することで、おもしろくもなんともない映像がとたんに腹を抱えて笑ってしまうような映像に変化する、ということがこの番組では起こっているわけだけれど、とりわけ興味深いのは、ロケがつまらなければつまらないほどツッコミの威力が倍増してむしろ番組自体は面白くなってしまう、ということだ。ロケがすごく下手なゲスト回だったり、相席するなかでキャラが濃すぎて空気が読めない人が登場したり、道中で予期せぬハプニングが起こったときのほうが、ロケをそつなくこなしている回よりも面白くなってしまう、という。

 つまらないほうが面白くなる。この番組の構造はほんとうに発明的だなと思っていたのだけど、冒頭の話に戻るけれど、なるほど批評ってそうものかもなと思ったのだ。たとえば建築の講評会とかでも、講評する側が生徒の案にツッコミをいれたり深読みをしていくなかで案がより面白くなっていくという状況がたまに起こるけれど、それはこの番組で起こっていることにとても近いのではないか。そつなく器用に仕上げた作品の講評はあんまり盛り上がらず、少しバランスが崩れた極端な案のほうが盛り上がるという状況もよく起こるけれど、そこも似ている。もちろん、そつなく丁寧につくられた案が否定されるべきではなく、別の環境では(というか一般的には)そういう提案が求められるわけだけれど、とりわけ講評会というオープンな批評の場においては立場が逆転する。個人的な興味に基づいて設計されていてどこか常識からはずれていたり、何か根本的な誤解があったりするなかで、でも一生懸命全力でかたちづくられたような成果物が、本人も思いもしなかったような仕方で輝くということが幸福な批評な場においては起こりうる。

 いびつな提案と同じように、いびつなロケというのもまた、午前中にやっている街ブラロケとかヒルナンデスとかではやはり成立しない(蛭子さんの街ブラロケなんかはそういう性質があるような気もするけれど)。相席食堂という、千鳥が批評=ツッコミを入れるという特殊な場でないと、つまらないロケは輝かない。が、ツッコまれたとたんに、いびつなロケはいわゆる「普通のロケ」をはるかに超えた素晴らしい映像になる。この番組をみていると、どういう分野であれ、批評といたものはいびつなで極端な、万人受けはしないような、だけれど全力で取り組まれたものを輝かせるためにあるのだ、と思えてくる(逆にいえば、すべての人がそつなく仕事をこなしそこそこ良いものを目指すという分野においては、批評=ツッコミというのはあまり能しないのではないか)。とはいえ、相席食堂的な枠組みを長く続けていると、ツッコミを入れる側(批評家あるいは講評者)が必要以上に権威的になってしまって、マイナーなものを輝かせるどころか、講評される側を過度に抑圧してしまったり……ということが容易に起こりうるので、これは気をつけなければいけない。千鳥は今のところ、とてもいいバランスで立ち回っているようにぼくには見えるけれど、前回のいっこく堂の回なんかは、その危うさが少し噴出してしまっていたように思う。

 伊集院光がラジオで、いまやっている「M 愛すべき人がいて」という浜崎あゆみの自伝をもとにしたドラマでの田中みな実の極端な演技に関してツッコミをいれているのだけど、これも同じような理由ですばらしい。伊集院さんのツッコミを聞くと「絶対このドラマみなきゃ!」となるし、じっさいに見てみると、田中みな実のまっすぐまじめに本気で取り組まれた(がゆえにどこか香ばしい)演技が、どこか愛らしいものとして見えてくる。あと、この4月からはじまった「山里亮太のまさかのバーサーカー」という番組も構造はほとんど同じだ(相席食堂と同じくABCテレビの番組だしね)。この番組は南キャンの山ちゃんが司会で、ロケ慣れしていない文化人枠のタレントとかに身体を酷使するようなロケをわざと強いて(つまり「いびつなロケ」をかなり狙って作って)、その映像をクイズ番組という体をとって野性爆弾くっきー、・笑い飯西田・インパルス板倉がツッコむというもので、ほとんど偶発的に生まれたであろう相席食堂のもつ面白さを、ABCテレビがより人為的に制作しようと企図して作られた番組だとぼくには思われて、とても興味深い。

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PENTAX 67, SMC TAKUMAR 6×7 105mm / F2.4, FUJI PRO400H