○ ガートルード・スタインの『地球はまあるい』があまりにも美しくて、とても勇気づけられている。
いつかあるとき、世界はまあるくてぐるりぐるりと歩いてくことができました。
どこにでもどこかがあって、どこにでも男のひと女のひと子どもたち犬たち牛たち野豚たち小うさぎたち猫たちトカゲたち、そんな動物たちがいました。ほんとそのとおり。それでみんな犬たち猫たち羊たちうさぎたちトカゲたち子どもたちぜんぶが、みんなにそのことを話したかったのです。じぶんたちについて話したかったのです。
それからローズがいました。
ローズがその子のなまえで、たとえ彼女のなまえがローズでなかったとしても彼女はローズだったことでしょう。彼女はそのことをかんがえたものだったしそれからもう一度かんがえたものでした。
たとえ彼女のなまえがローズでなかったとしても彼女はずっとローズだったでしょうし、たとえ彼女が双子だったとしても彼女はローズだったことでしょう。
やっぱりローズが彼女のなまえでした。とうさんはボブというなまえ、かあさんはケイトというなまえ、おじさんはウィリアムというなまえ、おばさんはグロリアというなまえ、それからおばあさんはルーシーというなまえでした。みんなになまえがあったし、彼女のなまえはローズ、だけどもそうかしら、と彼女はそのことについて泣いたものでした。もしわたしのなまえがローズじゃなかったらわたしはローズだったかしら。
いっておきましょう、このとき地球はまんまるまあるくてぐるりぐるりと歩いてくことができました。
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ガートルード・スタイン著『地球はまあるい』, ぱくきょんみ訳, 書肆山田, 2005(原著: 1939)
この書きだしの一説がほんとうに素晴らしく、いつ読んでも泣けてくる(ぼくがおじさんになりつつあり涙腺がゆるみつつあるということではけっしてない、と思うのだが、、)。
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