AUG.30,2018_Underground / Dice


Chris Potter's Underground、あらためていいなと最近おもう。『Follow the Red Line - Live At the Village Vanguard』(2007)と『Ultrahang』(2009)というアルバムがオススメです。メンバーは、Chris Potter(Ts, B-Cl)、Adam Rogers(G)、Graig Taborn(Rhodes)、Nate Smith(Ds)。最初のアルバム『Underground』(2006)ではメインのギターがウェイン・クランツだったのだけど(クランツが弾いてるライブ動画はYoutubeでも見ることができる)、最終的にはロジャースが固定メンバーとなった。ベースレスの4人編成ということもあって、ギターがクセの強いクランツか、正統派のロジャースか(普段に比べればたいぶハジけてはいるものの)という違いはとても大きい。個人的にはクランツ編成もとても好きで、『Underground』には「Nudnik」という名曲がおさめられているのだけど、この曲はクランツじゃないと成立しない感じ。
クリス・ポッターは現代最高峰のジャズ・テナー奏者といっていい存在で、歴史的にみてもこれほどのプレイヤーはなかなかみつからないよな、という人。そのクリポタがゼロ年代に、幾分ファンク要素強めな、電子的・先鋭的な楽曲をやっていたのがこのアンダーグラウンドというバンドで、影響力はかなりあったと思う。たとえばDonny McCaslinの『In Pursuit』(2007)というアルバムとかは後追い感がけっこうあるなぁと思えた(ベン・モンダーやマーク・ギリアナといっしょにやってくれているので、ぼくはもちろんありがたく聴いているのだけど)。
Chris Potter's Undergroundは、2000年以降のコンテンポラリー・ジャズのひとつの傾向を、とてもよくあらわしているバンドだと思える。カート・ローゼンウィンケルの『The Remedy: Live at the Village Vanguard』(2008)をその極とするようなひとつの流れだ。ジャズの伝統的なインプロヴィゼーションを極めた才能ある若手のミュージシャンたちによる、エレクトリックではあるがいわゆる「ダサいフュージョン」的な方向にいくのではなくて、マイルスが切り開いた、そしてマイケル・ブレッカーが生きていれば到達していたであろう、フュージョンの最もハードコアな側面をより先鋭化させていくような動向。70年代生まれの、RadioheadやLotusを聴いていたであろう彼らの若い感性が、「ジャズ」という形骸化した、空っぽの形式だけが残された音楽ジャンルに流れ込んでいった。

そうした状況は2010年代に入ると反転して、ジョシュア/パークス/ペンマン/ハーランドによる『James Farm』(2010)がもっともわかりやすい例だと思うけど、よりわかりやすく、ポップな方向へむかっていく(ゼロ年代までのコンテンポラリー・ジャズのもっていた難解さの振り戻しだろうか)。

ざっくりいえばそんな大きな流れがあるなかで、Chris Potter's Undergroundは今聴いてもやはりいいなと思えるような強度がある。コンテンポラリー・ジャズという枠組みに分類されるミュージシャンたちは、90年代の重く、暗く、複雑な演奏から、ファンク的身体性を取り戻した複雑さへと向かい、それから、一見すると単純な楽曲な中で、ある種の疑似餌(フック)としてのポップさを全面化していった。ジャズにおける即興演奏の枠組みは、次にどのような方へと向かうのだろうか。引き続き動向を見守っていこうと思う、、。
ところでギターのアダム・ロジャースは「Dice」という、Undergroundとおなじようなコンセプトのトリオを編成し、NYで継続的にライブをおこなっていたのだけど、活動開始から5年ほどたってもアルバム等のリリースは一向になく、いつになったらだすねんと思っていたら、去年ようやくだしたのだった。ワンコード上でどれだけチャレンジングな演奏をできるのかというシンプルな問いを、Undergroundの活動が落ち着き、まわりがポップな方向へ行く2010年代においても、しつこく、ブレずに、継続的に取り組み続けたロジャースの新しいアルバムは、期待を裏切らずものすごいものになっていた。ぜひ聴いてみてほしい。


△『Dice』, 2017.7
Adam Rogers(G), Fima Ephron(B), Nate Smith(D)
https://tower.jp/article/feature_item/2017/07/03/0103