180302

キネ旬シアターで『永遠のジャンゴ』をみてきた。ニールさんのブログのおかげで最終日に滑り込むことができた。感謝です、、。

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 あらすじをほとんど入れずにいったのだけど、まさか戦時中の3年間だけをやるとは思っていなかった。とくにフランスがナチス占領下にあった1943年、44年あたりが本映画の舞台になる時期だ。ジャンゴは既にステファン・グラッペリと別れていて、もうこのころには伝説的なギタリストとして名を知られていた。だからこの映画は伝記的な物語ではなく、むしろジャンゴを通して、あるいは彼らが奏でる音楽を通して、ナチスに徹底的に追い詰められていくロマ族の悲痛を描いていくことに比重がおかれていたように思う。

 ぼくはギターを少し弾くのだけど、5年ほど前、大学のジャズ研でジプシー・ジャズをやるバンドを組んでいたことがあった。ジャンゴ・ラインハルトが(ジャズに限らず)後世のギタリストに与えた多大な影響に関しては、今更書く必要もないくらいのものだと思うけど、そういう環境にあったぼくにとっては、ジャンゴはリアルな耳コピの対象というか、現在進行系のギターヒーローという感じで、特別な存在だった。で、ミーハーなぼくはジャンゴの伝記とかも読んでいたのだけど(マイケル・ドレー二さんという方が著した『ジャンゴ・ラインハルトの伝説』という本)、1943年〜1945年の時期の記述というのは実はちょこちょこっとしか出てこない。もちろんかなり脚色はしているようなのだけど、この3年間だけをとりあげて映画をつくるという制作者の決断は、かなり卓越したものだったとおもう。制作者の狙い通りだとおもうのだけど、この英断によって本映画は「ジャンゴ」という個人を超えて、強大な権力に迫害されるマイノリティーたちの、より普遍的な物語を描くことに成功していた。

 「マイナーの曲をやるな。メジャーの曲だけだぞ。」というナチス軍人のセリフはその辺もかけていたのだろうか。そうそう、ジプシー・ジャズでぼくが最も好きな曲は「マイナー・スイング」なんだけど、この曲はこのセリフの後の、本映画のクライマック的な場面で満を持して登場して、そのときはさすがに胸が震えた。演奏担当のローゼンバーグ・トリオはまじでいい仕事してたなぁ。あと、壮絶な迫害にあったジプシーを想い、ジャンゴが書き残したレクイエム。この曲は現在、部分的な譜面しか残っていないらしいのだけど、ウォーレン・エリスという方がそれを再現(復元?)していて、これが本当に素晴らしいものだった。

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 この映画の存在を知ったのは去年の5月にパリにいったときで、メトロで大々的に宣伝されていたのを覚えている。あのときはちょうど大統領選をやっていた時期で、「ルペンがもしかしたら勝つかもしれない、、、」という局面だったから、フランス人にとっては本当にタイムリーな映画だったのだろう。2月のベルリン国際映画祭でオープニング上映されたというのも、この内容と国際情勢からするとなるほどなと言う感じ。

 蛇足になるのだけど、ジャンゴをはじめとしたジプシー・ギタリスト達が用いるギターは「セルマー・ギター」とか「マカフェリ・ギター」とかいわれるもの。ナイロン弦で、ガットギターの仲間になるんだけど、サウンドホールの形状が独特で、特有の乾いたサウンドがでる。

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柏駅前にあるギターショップタンタンさん(https://www.guitarshoptantan.com/)は、実はこのジプシーギターを日本で取り扱っている代表的なお店だったりする。あこがれのギターなのだけど、かなり音量がでるギターなので、アパートでのひとり暮らしではなかなか手が出ないんだな。

 

●ジュリアン・レイジ(Julian Lage)という若手のギタリストがいる。彼は、ジャンゴが開拓していたインプロヴィゼーションの路線をそのままなぞるのではなく、ある種正当に引き継いでいる唯一の存在だと思う。パット・メセニービル・フリゼールジョン・スコフィールドから現在のカート・ローゼンウィンケルあたりまで続くコンテンポラリー・ジャズの流れを汲みつつも、ジプシーやブルグラス、あるいは現代音楽の要素を積極的に取り入れ、独自のサウンドを構築している。

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