180406_図4 建築のスケール

○昨年からずっと準備してきた書籍が、本日発売されました。「図4 建築のスケール」という本で、編集及び執筆を担当しました。本書の概要と使い方(読み方)に関して書いていこうと思います。

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図4 建築のスケール

図4 建築のスケール

 

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○題名からお察しいただけるかもしれませんが、本書は10年ほど前に1から3まで出版された『図』*1というシリーズの続編です。『図』シリーズとは、射影幾何学をはじめとした図学の知識や、模型表現の方法、リプレゼンテーションの手法など、建築における図的な表現に関して、各シリーズごとに詳細に解説していくシリーズでした。図1〜3というのは基本的に、建築を修学している人間に向けた専門書として書かれたものだったのですが、今回の図4は、これから建築を学ぼうとしていている方や建築の玄人だけではなく、建築の専門ではない方にも楽しんでいただける内容になっているのが特徴です。

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○図4は当初から、「スケール」をコンセプトにまとめようということになっていました。「スケール」とは端的にいって、ものの寸法やものを計る道具、あるいは縮尺といった、広く「大きさ」に関わってくる用語です。ものの物性や、人間や植物の日々のふるまい、光のコントロール、雨や地震といった自然環境への造詣など、建築家に求められるスキルは多岐にわたりますが、スケールを的確に把握し、「大きさ」を自在にコントロールすることは、それらと同じくらいに普遍的かつ本質的な建築の要素なのです。

 そうしたコンセプトのもと内容を練っていった結果、本書は「図鑑」のような本に仕上がりました。具体的には、世界中に点在する多種多様な建物から、「正方形」、「円」、「楕円」といった共通のかたちをもつものをピックアップ・分類して、それらを同一の尺度のもと羅列し、閲覧・比較することのできる内容となっています(数としては400弱の建築作品をあつかっています)。

▼円形

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▼正方形

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▼正多角形

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▼楕円形

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○同一の形態で建物をひとまとめにすることで、「カタチ」に関する議論を一旦無効にし、翻っては「スケールの差異」そのものを可視化すること。これが本書の意図であったわけですが、これはまさに「図鑑」のもつ特徴そのものです。たとえばここに「日本産ヒラメ・カレイ類」の図鑑があったとして*2、ぼくは海洋生物は門外漢なわけですけども、そこでは徹底的にヒラメだけが収集・羅列されているがゆえに、普段は気づきようがないヒラメ同士の微小な差異に、素人のぼくでも注目することができ、そしてさらには生息する地域による鱗の質感の変化なんかを楽しむことができるわけです。図鑑的なフォーマットというのはそういうわけで、多種多様な文脈を持った読者への、ある種の開放性みたいなものを持っているのだと思いますし、そこが図鑑の面白さ、魅力につながっていると思います。

○そうした特徴は本書にもよくあてはまっていて、建物に興味のある方であれば、年齢に関係なくどなたでも楽しんでいただける内容になっているとおもいます。その仕掛けのひとつが、ページ左端のQRコードです。これをカメラで読み取っていただけると、Google Map上のその建物にジャンプすることができるようになっています。ストリート・ビューで外観を眺めたり、場合によっては内部にも入れたりして、Google Mapからは思った以上に多くの情報を得ることができます(多くの建築家や建築学生が、ひとまずGoogle Mapで“敷地調査”をすることも、いまや当たり前になりました)。こうした仕組みをうまく活用して、本書を大学や専門学校等の授業で参考書的に用いても面白いかもしれません。

▼図4の使い方

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○本書後半のテキスト「建築におけるスケールの概念について」は、建築における「スケール」に関する様々な記述に対し批判的な再解釈を試みていく非常に骨太な内容となっていて、「スケール」に関するテキストとしては決定的といってもいいような密度にまとめられています。また、本書中途ではさみ込まれる「コラム」は、幾何学形態に関する専門的な知見をビジュアライズした有意義な内容となっています。

▼「建築におけるスケールの概念について」

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▼ミニコラム

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○機能や地域、あるいは様式など、まったく出自の異なる建築が、同じ平面形態をもっているというその一点で集められ、羅列されているという状況を眺めるのは、普段建築を専門とする人間にとっても、(自分でつくっておいてなんなのですが)思った以上におもしろいもので、その経験は様々な創造的読解を生むのではないかと思います。「同じくらいの大きさとカタチ」という、半ば力業の切り口によって、(本来は)互いに無関係な建築物が、唐突に隣り合うこと。「隣接する」ということ自体に意味はないですが、そこに意味を見出すことはできるわけで、そこから各々が、各々のしかたでのリアリティを、羅列された建築作品の間に構築することができれば、それは中々豊かなことなんじゃないかと思うわけですが、その際にもやはり鍵となるのは「スケール」ということになるんじゃないかと思います。

▼縮尺が変化する際には、前掲した建築作品の写真がはさみ込まれる

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○ピエール・ヴィットリオ・アウレリ(Pier Vittorio Aureli)という、正方形のプロジェクトばかりをやっている建築家がいるのですが、彼ははこんなことをいっています。

私たちのプロジェクトは決まって正方形から始まります。 理由を一切議論しないという意味で、これは我々にとってドグマ=教義なのです。正方形を用いることで、やけになって面白いかたちを探すという、建築家にとって惨めな時間をスキップします。 かたちに費やす時間を避け、かたちの選択を超えたものを探求するためにこの前提条件を使用するのです。*3

「やけになって面白いかたちを探す惨めな時間」というのは中々に強烈なワードですが、ぼくは個人的にいま、建築に対するスタンスとして、アウレリにはかなり共感するところがあるのです。“新しい建築”をつくっていくときに、いわばそこに正当性を貸与するため、パラメトリックに、トポロジカルに、バイオモフィカルにと、分野を横断するようなアプローチが積極的に導入されているこの時代にあって、 アウレリは断固としてカタチを選択しません(たとえばOFFICE Kersten Geers David Van Severenなんかもそうですけど)。で、正方形という所与の枠組みのなかでコントロールできるのは、「スケール」と「建ち方」くらいなものなのですが、彼らはむしろ積極的にそうした状況に身を投じていく。与えられた敷地や課題、プログラムといった条件に対して“適切な”寸法を与え、それによって空間の質と序列を設定し、なるべく経済的に、かつ美しいディテールと素材を決定し、最終的には都市組織と建築の界面を模索していくという、「スケール」に端を発するこの一連の作業は、真摯にに取り組めば取り組むほど、それはまぁとてつもなく、うんと時間のかかることであって、彼らは形態を選択しないことでその一点を前景化しようとしているわけです。

 スケールの調整という、その単純な作業の積み重ねによって、建築を、ある批評性をもつ状態までに彫琢していくこと。これからそういう仕事をしようとおもっている方にとって、本書が有益なレファレンスとなれば、著者冥利に尽きるところです。とはいえそこまで肩肘を張らず、スマートフォンを片手にもって図鑑的に建築作品をぱらぱらと眺めていただくのが、本書の楽しみ方としては丁度いいのですが。

 少しでも興味をもっていただけたらうれしいです。書店で目にする機会などありましたら、ぜひ目を通していただければと思います。

*1:図研究会著: 図 建築表現の手法, 図2 建築の模型表現, 図3 建築の図形表現, 東海大学出版会, 1999-2001

*2:https://www.amazon.co.jp/日本産ヒラメ・カレイ類-尼岡-邦夫/dp/4486021088

*3:P.V.Aureli: DOGMA, Syracuse University Press, 2011, p3